ここでは、妊娠を妨げる可能性のある7つの疾患と「漢方周期療法」について記しておきます。

また、「不妊の原因」「不妊の検査」も参考にして下さい。

子宮筋腫

子宮体部の筋層にできる良性腫瘍(コブ)で、30代・40代の女性だけでなく、20代でもなる人がいます。

子宮筋腫は、できる場所によって大きく3つ(子宮内部へ出っ張る筋腫、子宮外部に出っ張る筋腫、子宮筋層内で膨らむ筋腫)に分けられます。

子宮筋腫のできる場所によっては、受精卵の着床の妨げになったり、子宮の変形が問題になることがあります。

子宮筋腫のサイズがあまりにも大きい場合は、手術を考える必要があります。

サイズが鶏卵大までなら、漢方薬で筋腫が小さくなったり無くなるケースがあります。

それよりも大きい場合でも、サイズが小さくなる場合がありますので、漢方薬を服用してみる価値はあります。

「漢方周期療法」を行なう場合は、全”期”に 活血化瘀(体に不必要で有害なドロドロ血液を除く)作用のある漢方薬を併用すると効果が上がることが多くみられます。

子宮内膜症

本来は、子宮の内側にしか存在しないはずの子宮内膜組織が、何らかの原因で他の場所(卵管、卵巣、子宮筋層や外膜、直腸、ダグラス窩など)に飛び火し、そこで本家の子宮内膜と同じサイクルで増殖と剥離を繰り返す病気で、進行すると不妊症の原因になります。

特に、血管やリンパ管を通じて卵巣に根づきやすく、古い月経血が卵巣内にたまってチョコレート状(チョコレート嚢腫)になり、卵巣が大きく腫れて、排卵障害を起こしやすくなります。

また、子宮筋層に飛び火した場合(子宮腺筋症)は、着床障害を起こしやすくなります。

子宮内膜症の症状としては月経痛が有名ですが、無症状の方も多く、検査をして初めて子宮内膜症がわかったというケースも多くみられます。

無症状でも子宮内膜症が進行している場合もあり、重度になると上記のように、着床障害や排卵障害が問題となります。

近年、子宮内膜症は不妊症の原因として重視されてきており、原因不明の不妊症の方の約半数が子宮内膜症を合併しているという報告もあります。

中医学では、子宮内膜症を瘀血(古びた血液や滞った血液)と考えています。

重度の場合を除けば、子宮内膜症に対して漢方薬はとても効果的です。

「漢方周期療法」を行なう場合は、月経期から排卵期に 活血化瘀化痰 (体に不必要で有害なドロドロ血液を含む液体成分を除く)作用をもつ漢方薬を併用すると効果が上がることが多くみられます。

多嚢胞性卵巣症候群(PCO、PCOS)

卵巣内の卵胞が、ある程度までしか育たない(成熟卵胞まで育たない)ため、排卵しないので、卵巣の表皮の皮が段々厚く硬くなり、ますます排卵できない状態になります。

超音波検査をすると、卵巣には沢山の小さな卵胞が、まるで真珠のネックレスのように見えるので、ネックレスサインとも呼ばれます。

排卵障害の一種です。

血液検査では、LH値が高い・男性ホルモンが高い・インスリン抵抗性、などがみられます。

中医学では、卵巣のまわりに瘀血(ドロドロ血液)や痰湿(血液以外のドロドロ液体成分)がこびり付き、卵巣膜が硬くなった病態と考えます。

軽度の場合は活血薬(ドロドロ血液を除く漢方薬)と化痰薬(血液以外のドロドロ液体成分を除く漢方薬)を配合した「漢方周期療法」が効果的です。

中程度から重度では、排卵障害が顕著になり、ひどい場合は無排卵になります。

この場合は、クロミフェン療法やhMG-hCG療法などと平行しながら、月経期から低温期に活血化痰薬(体に不必要で有害なドロドロ血液を含む液体成分を除く漢方薬)を用いたり、必要に応じて補腎薬(子宮や卵巣の働きを助けたり、天然のホルモンを補充する漢方薬)を用います。

高プロラクチン血症(高PRL血症)

妊娠していないにもかかわらず、プロラクチン(女性ホルモンの一種)が過剰に分泌されることがあり、これを高プロラクチン血症といいます。

高プロラクチン血症の問題点は、視床下部の刺激ホルモンを抑制して、月経や排卵を抑えてしまうことにあり、受精卵の着床に影響を与えることもあります。

症状としては、乳汁の分泌があったり、胸が脹ります。

一方、検査で異常がなく、乳汁の分泌もないのに、ストレスがあった時などにプロラクチンが高くなる潜在性高プロラクチン血症もあり、同じように不妊症の原因になります。

潜在性高プロラクチン血症は、TRHテストという負荷テストでわかります。

芍薬

芍薬

漢方薬では、炒麦芽や芍薬甘草湯にプロラクチンを低下させる作用が知られており、月経期以外の”期”に服用していただきます。

西洋薬(テルロン、パーロデル、カバサールなど)に比べると、プロラクチンを低下させる力は弱いですが、副作用がなく安全です。

免疫性不妊

ここでは3つのタイプを紹介します。

抗精子抗体

精子に対する特殊な抗体で、これが女性の血液中にあると、子宮頸管で精子をシャットアウトしてしまいます。

男性の精液中に抗精子抗体があることもありますので、夫婦ともに治療が必要な場合があります。

漢方薬は、「漢方周期療法」の上に、体質に合った免疫調整薬を併用します。

抗リン脂質抗体(自己免疫疾患に伴う習慣流産)

血小板や血管壁に作用し、血栓や血管収縮を引き起こす抗体で、胎盤や子宮内膜の着床部位に起こると流産を誘発します。

西洋医学では、血液凝固能を延長させて血栓を予防する療法(低用量アスピリン療法、低用量ヘパリン療法、ステロイド療法)が行われます。

漢方薬は、「漢方周期療法」の上に、冠心Ⅱ号方・冠元顆粒・田七人参などの 活血薬(ドロドロ血液を除く漢方薬)を併用すると効果的です。

田七田七人参(にんじん)人参

夫婦リンパ球の類似(夫婦間同種免疫に伴う習慣流産)

夫婦間において、類似したHLA抗原(ヒト組織適合抗原)を有していたり、母体-胎児間にもHLAの類似性が高い場合、母体が胎児を認識することが難しく、速やかに遮断抗体(正常妊娠において、母体が胎児に対して拒絶反応を引き起こさないように、母体が産生する特殊な抗体)を産生しないために、流産を引き起こすと言われています。

西洋医学では、妊娠前にあらかじめ夫リンパ球を移植し、実際の妊娠の際に速やかな遮断抗体の産生を期待するリンパ球療法が行われます。

漢方薬では、「漢方周期療法」の上に、体質に合った免疫調整薬を併用します。

卵管の狭窄や閉塞

卵管障害につきましては、このページの不妊の原因不妊の検査にも記しましたが、原因として多いのはクラミジアなどの感染症と子宮内膜症です。

卵管は鉛筆の芯ほどの細い器官なので、ダメージを受けやすく、炎症や癒着がひどければ、 手術などにより癒着部分を取り除くか卵管を通す手術(卵管形成術)を行なうことで妊娠が可能になります。

左右両方が完全に閉塞している場合は、体外で受精させた受精卵を直接子宮に戻す方法を行ないます。

漢方薬は、体外受精の妊娠率と着床率を高めることを目的とする「漢方周期療法」を行ないます。

癒着の程度が軽ければ、漢方薬が効果的です。

月経期から低温期(卵胞発育期)に活血薬を配合して癒着を軽減し、排卵期にはさらに強力な活血通路(細い管の通りをよくする)作用をもつ漢方薬を加味すると良い効果があります。

月経周期が不安定な場合

無月経や月経周期があまりにも不規則な方は、「漢方周期療法」を行なう前に月経周期を調節するようにします。

月経周期を調節する場合は、体質や症状によりさまざまな漢方薬を用いますが、養血調経薬(血液を増やしながら月経を整える漢方薬)を中心に考えます。

養血調経作用のある漢方薬を服用しているうちに妊娠される方もおられますが、2~6周期服用して月経が整っても妊娠しない場合は、「漢方周期療法」に移るようにします。

月経周期を調節する漢方薬で基礎づくりができると、「漢方周期療法」で良い結果が得られる場合が多くみられます。