女性は、月経や妊娠、そして出産など特有の生理的サイクルがあり、ホルモンバランスの変化も男性とは違います。
そして、女性特有のホルモンバランスの変化がうつ病になる割合を10~24%と男性の約2倍に上げる原因と考えられています。
この項では、女性特有のうつ病である《産後うつ病》と《更年期うつ病》について解説ます。
産後うつ病
マタニティーブルーという言葉を時々耳にされると思いますが、本来嬉しい出来事のはずの出産に直面して、自分が母親になるという事実を受け止められなかったり、突然わけもなく涙があふれてきたり、気持ちが落ち着かず不安でイライラしたりと、心や体の不調を感じる方が多いのです。
妊娠中には、女性ホルモンの分泌が増加するのですが、出産後に女性ホルモンの分泌が急激に低下することで自律神経のバランスが乱れ、このような症状が起こります。
出産をした女性の10~30%がこのような症状を経験するといわれますが、2週間もすれば治まるごく軽いうつ状態です。
しかし、このマタニティーブルーがきっかけとなって、後に本当のうつ病を発症する場合もあるということを知っておいてください。
出産後は、普通はほぼ1日中赤ちゃんと接して世話をし、授乳もしますから、出産前と違って睡眠や食事もままなりません。
特に核家族化した現代では、日中のほとんどが赤ちゃんと二人きりということも珍しくないのです。
このような孤独で気の抜けない状況が母親の大きなストレスとなって、次第に心身の過労状態に陥ってしまいます。
さらに、夫が仕事に忙しく育児に無関心な場合、家事も加わり全てを自分がやらなければならないというプレッシャーが、精神的に大きな負担となってしまいます。
また、日ごろから真面目で几帳面な人は、育児や家事などがうまくいかない責任を全て背負い込み自分を追いつめることにもなりかねません。
このような状況が、本来一過性の軽いうつ状態であるマタニティーブルーをきっかけに、産後うつ病を発症してしまう大きな要因となります。
産後うつ病が続き重くなると育児にも悪い影響がありますし、取り返しのつかない結果を招く恐れもありますので、本人はもちろん、ご主人やご家族など周りの人も充分注意をし、うつ病のサインを見逃さないことが大切です。
更年期うつ病
更年期とは、個人差はありますが、だいたい40歳を過ぎたころから次第に卵巣の働きが低下し始めることで女性ホルモンの分泌が減少し閉経を迎える前後の期間のことを言います。
女性ホルモンの分泌が減少しホルモンバランスが変わってくるわけですから、自律神経のバランスも崩れて様々な不調が現われてきます。
この更年期に不調となる状態を「更年期障害」といい、身体に現れる症状としては「ほてり」「めまい」「肩こり」「冷え」「頭痛」「不眠」などがあり、さらに「憂うつ」「不安」「寂しさ」などの精神症状にもなりやすくつらい時期を過ごす方も多いのです。
また、これらは症状はうつ病の症状に見られるものとよく似ています。
女性の更年期は、ホルモンのバランスが大きく変わり身体の転換期だと考えられますが、ちょうどその時期は、人生においても様々な転換期となる方も多いでしょう。
お子さんの手が離れ、早ければ就職して家を出られたり、さらに結婚して自立したり、またご両親の介護に手がかかるようになったり、二人きりになったご主人との関係に悩んだりと、そんな時期の方が多いはずです。
特にお子さんたちが自立した後、家庭という巣に取り残されたような空虚な気分になる「空の巣症候群(からのすしょうこうぐん)」になる方もいます。
また、更年期障害以外にも生活習慣病など健康への不安が増して気になってくる時期でもあります。
このように同時に現れてくる様々な変化が強いストレスとなり、この時期にうつ病を発症してしまう場合があります。
更年期では、気分の落ちこみや身体の不調を安易に更年期障害と決めつけないでください。
気分が落ち込んだり体の不調を感じたりしているのは単に更年期障害だけでなく、様々な要因が重なっているはずで、長く続くようであれば、うつ病の可能性もあり、専門医に早めに相談することをおすすめいたします。
最近の統計では自殺者が3万人を越えるペースとなっており、これは15人に1人といわれるうつ病患者の増加と関係があると考えられています。
うつ病は、「心の風邪」ともいわれ、誰でもが罹りうる病気ですし、自殺にもつながる病気です。
しかし、自分自身はもちろん、家族や友人など周りも変化の徴候を見逃さず、早めに適切な治療をすることで、重大な結果になることなく、必ず治る病気だということも知っておいてください。