アトピー性皮膚炎発症のメカニズム
皮膚は、汗腺の開閉を調節したり、皮膚の緊張度を適度に保ち体温を維持すると同時に、皮脂腺の分泌を通じて皮膚に潤いを与える、という総合的な作用により身体の表面を守っています。
この機能を「衛気(陽)」といいます。
また、これらの機能を円滑に働かせるための材料が「営血(陰)」と呼ばれる物質です。
皮膚を健康に保つには、営と衛が助け合って調和されていることが条件です。
このため、皮膚の病気はこの営と衛の調和がくずれると発症しやすくなります。
アトピー性皮膚炎はこの「営衛失調」が前提条件として存在します。
また、素体としては先天不足(腎虚)の上に、後天失養(脾虚)があると発症しやすくなります。
発症のメカニズムをもう少し詳しく見ていきましょう。
臓腑紊乱(脾腎機能失調)
脾腎の働きが乱れる(不足ではない)と、脾腎の共通機能である水液代謝の異常が起こり「湿」の発生につながる。
この「湿」が長期体内停滞を起こすと、化熱され湿熱となることもある。
ここへ外邪の風湿や風熱が侵入すると、「湿」や「湿熱」が体表の肌膚や三焦で停滞を起こし、「営衛失調」となりアトピー性皮膚炎が発症する。
初期や乳幼児のアトピー性皮膚炎に多い。
脾気虚弱
脾の働き(脾気)が虚弱になったもの。
脾気が正常に働くためには、脾陽と脾陰のバランスが取れていることがポイントである。
このため脾の場合、脾陽不足と脾陰不足に分けられる。
脾陽不足は・・・
熱量不足のため水湿が発生し、外邪の侵入と相まって体表の肌膚や三焦で停滞を起こし、「営衛失調」となりアトピー性皮膚炎が発症する。
「湿」が絡むので湿疹型のアトピー性皮膚炎となる。
脾陰不足では・・・
陰液不足を起こし、「営衛失調」となりアトピー性皮膚炎が発症する。
営血の不足が強くなるので皮膚はカサカサで潤いのない状態(血虚失養)となる。
少し専門的になりますが、以下のようなタイプに分類されます。
詳しくは、漢方百草園薬局までお問い合わせ下さい。
乳幼児期(0~8歳くらいまで)
耳のまわりがただれる「旋耳瘡(せんじそう)」や頬や頭に丘疹ができるなど、頭や顔、首に症状が現われる点が特徴です。
体質と皮膚の症状などから、黄耆建中湯や桂枝加黄耆湯、桂枝加厚朴杏仁湯(喘息を兼ねる場合)などを中心に、赤みがひどい場合は升麻葛根湯や越婢加朮湯、治頭瘡一方を加味し、ジュクジュク(滲出液)がひどい場合は平胃散や?香正気散、除湿胃苓湯を加味するか補気建中湯や補中治湿湯などを用いる。
また、病位(病気の位置)がより深い三焦という場所にある場合は、柴胡桂枝乾姜湯と猪苓湯にヨク苡仁を加味するとよい。
初期(9~10歳以上の子供、大人)
脾腎の虚損がベースにあるため、基本的に湿が生じやすい。
このためアトピー性皮膚炎の初期は、湿疹型が圧倒的に多い。
【湿疹型】 | アトピー性皮膚炎の症状ほか | 代表的な漢方薬 |
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Aタイプ | 四肢屈側の肘や膝に白い丘疹ができる。水疱がみられるが固定的で緩慢。拡大傾向に乏しい。痒みも軽い。掻くと希水が出る。身体が重だるい、食欲不振、排便がスッキリしない、腹部膨満などの症状を伴う、 舌質偏淡、舌苔薄あるいは膩あるいは滑… |
胃苓湯、藿香正気散、五苓散 |
Bタイプ | 頭部や顔面、頚部、口囲、耳介周囲、胸背部、四肢に紅斑とその上に黄色い疱疹ができる。痒みは激しい。掻くと黄色で粘稠な流水。身体が重だるい、口が粘る、口が苦い、腹部膨満などの症状を伴う、 舌質偏紅、舌苔薄黄あるいは黄膩… |
竜胆瀉肝湯、茵陳蒿湯(1/2量)合 胃苓湯、(あるいは藿香正気散) 消風散、治頭瘡一方 |
【乾燥型】 | アトピー性皮膚炎の症状ほか | 代表的な漢方薬 |
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Cタイプ | 患部の色は淡褐色、白い掻き跡の線が残る。皮膚がザラザラして硬くなる。食欲不振、口唇乾燥、口乾、便秘、爪縁角化などの症状を伴う、 舌質絳痩、舌苔乏津… |
参苓白朮散合七物降下湯 |
亜急性から慢性(9~10歳以上の子供、大人)
湿熱が体内で停滞していると、熱という陽邪が体内の陰を損傷し始める。
最初に損傷されるのが血で、この状態を血虚失養と捉える。次に津液が消耗してくる。
津液は身体を滋潤する働きがあるので、不足すると燥性が目立ってくる。
最終的には陰の中心である精を不足させる。
これがアトピー性皮膚炎の進行状態と考えられる。
タイプ | アトピー性皮膚炎の症状ほか | 代表的な漢方薬 |
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Dタイプ 血虚無火 気血両虚 |
顔面や頚部、胸背部に淡褐色の色素沈着と肥厚した白っぽいザラザラの斑ができるが、痒みは比較的軽度。掻くと白い線が残り、少量の白屑が落ちる。(紅斑はない) 食欲不振、口唇は乾燥、口乾、疲れやすいなどの症状を伴う、 舌質淡… |
当帰飲子(合参苓白朮散)、人参養栄湯 |
Eタイプ 血虚有火 |
皮膚淡褐色に肥厚、ザラつき粗?化、白屑の発生と脱落はない、掻くと点状出血がみられる。(紅斑有り)食欲不振、口唇乾燥、口乾、便燥、爪縁角化などの症状を伴う、 舌質偏紅…このタイプが進行する(血燥→精虚血燥)ことが多い。 |
七物降下湯 |
Fタイプ 血虚生寒 気虚偏衰 |
顔面や頚部、胸背部に淡褐色の色素沈着と肥厚した白っぽいザラザラの斑ができるが、痒みは比較的軽度。掻くと白い線が残り、少量の白屑が落ちる。(紅斑はない)寒がり、手足の冷え、口渇なし、尿は透明で多いなどの症状を伴う、浮気のため皮膚が紅いこともある(臓寒肌熱)、 舌質淡… |
十全大補湯 |
Gタイプ 血虚生風 津液不足 |
痒みが激しい(特に夜間、秋と初秋)、掻くと血線が残る、皮膚のザラザラ感が強く肥厚部分が褐色、白屑の発生と脱落は緩慢、口唇乾燥、口乾、便秘傾向、爪縁角化、手足のほてりなどの症状を伴う、 舌質紅… |
知柏地黄丸合温清飲 |
Hタイプ 血熱燥風 |
斑疹は鮮紅や深紅色、その上に白屑が鱗状で層をなす、斑疹と白屑は新生し全身に広がる、掻くと点状出血がみられる、肥厚とザラザラ感は極点に達する、毛髪や眉毛の脱落、赤鬼様顔貌などの症状を伴う、 舌質紅絳、舌苔無あるいは黄燥… |
黄連阿膠湯合知柏地黄丸、黄連阿膠湯合桂枝茯苓丸、清上防風湯合知柏地黄丸 |
Iタイプ 精虚燥風 |
皮膚の枯燥が甚だしい、皮膚が萎縮し薄くなり銀屑が落ちる、皮膚の紋理消失、大きなシワ、ウブ毛がなくなり光沢を帯びる、肥厚部分が淡黒色、黒色の色素沈着、掻くとすぐに出血、酒さ様皮膚炎、手足のほてり、寝汗、腰膝の無力感、めまい、耳鳴りなどの症状を伴う、 舌質紅、舌苔少… |
加減一陰煎加亀板膠など |
Jタイプ 真陽発病 (陽虚) |
皮膚症状は乾燥・ジュクジュク・紅斑など様々、顔色が青白い、唇が青白い、目を閉じたがる、横になりたがる、声が小さい、気力がない、口数が少ない、身体が重い、寒がり、薄い唾液、舌上が潤滑、口中に津液があふれる、水はあまり飲みたくない、熱い飲み物を好む、大便・小便は出やすい、汗かき、四肢が冷たい、下半身が冷える、などの症状を伴う、 舌質淡~紅、舌苔滑潤… |
潜陽丹、四逆湯、理飲湯、鎮陰煎、封髄丹の加減方 (中医火神派理論とアトピー性皮膚炎の治療を参照) |