火神派理論の基本書
火神派理論の基本書として、鄭寿全は生涯において3冊の本を世に残しました。
- 「医理真伝」1869年刊行
- 「医法圓通」1874年刊行
- 「傷寒恒論」1894年刊行
このうち最初に刊行された「医理真伝」は、火神派の基本理論を記した著書で、「医法圓通」は病気や症状の各論を、「傷寒恒論」は三陰三陽病を、それぞれ記しています。
医理真伝の人間観と病因
「医理真伝」においては、人間誕生の過程を以下のように説いています。
陰陽学説に於ける人間観とも言えます。
女性という陰の中に、男性の陽の気(生命の種)が落ちると、女性の中に「陰と陽が混在したもの」が生まれます。
次にこの陰陽互根の状態から、「坎(かん)」と「離」、つまり「水」と「火」が生まれます。
「坎水」と「離火」ともいいます。具体的には、「坎水=腎=二陰一陽」と「離火=心=一陰二陽」として表します。
坎中真陽は常に上昇し水(坎水)を上部にある心(離火)と交わらせて、離中真陰は常に下降し火(離火)を下部にある腎(坎水)と交わらせます。
それと、脾胃の陰陽と合わせて、腎と心の上下に陰陽が交わることが出来れば健康であるわけです。
この流れをスムーズに行うことが出来れば良いわけです。
ここで一番大切なのは、腎の中には二陰と一陽があるわけですが、この坎中の一陽を ”龍”と考えたことです。
陽気が盛んになりすぎると、陰虚となり病気になります。
例えば、肺結核という病気が陰虚を代表する状態です。
次に、陽気が不足した場合には、陰気が盛んになります。
陰気とは蒸気に相当するものと考えています。
上焦の働きは君火が主ります。
君火の失調が起こると、耳鳴り、めまい、鼻水、くしゃみなどの上半身の症状が起こります。
上焦の陽虚が進み、陰気が旺盛になり、陰気が上僣すると症状はさらに激しくなります。
下焦の働きは相火が主ります。
相火の働きが失調すると、下痢、頻尿など下半身の症状が起こります。
下焦の陽虚が進み、陰気が旺盛になり、陰気が上僣するほど症状は激しくなります。
火神派理論によるアトピー性皮膚炎の治療
以上のことをもう少し解りやすくお話ししますと、下焦の陰陽の状態を考える時、下焦に水の玉があると想像して下さい。
水の玉の中には ”龍” が住んでいます。
水の玉は陰、龍は陽と考えます。
水の玉は、お腹が温かくて陽気が充実していると、下焦に居続けることができます。
これが健康な状態です。
しかし、元々寒がりで冷え症あるいは低体温の方が冷たい飲食を続けたり、環境の冷えや冷房にさらされ続けると、また加齢によって陽気が減ってくると、徐々にお腹が冷えて陽虚という体質に傾いてきます。
すると、この水の玉は下焦に押しとどめていることができなくなり、体中に広がると同時に水の玉の中にいた龍が暴れ出します。
体中の至るところに龍が行き、火を噴いて暴れます。
これが陰気の上僣なのです。
このような体質(病態)の人が、冷飲食を好む現代人に多いのです。
代表的な病気は、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬です。
これらの病気の皮膚炎は、龍が暴れて火を噴いている状態です。
この状態に対して、龍を攻撃するような冷やす薬を使ってはいけません。
漢方薬であっても、炎症があるからといって冷やす薬を使うと、益々陽虚が進み、お腹が冷えて元気がなくなり、皮膚病は悪化するのです。
お腹を温める薬を使い、お腹の陽気を増して元気にして、体中に広がった水の玉を元にあった下焦の位置に押しとどめるようにすると、龍が暴れることなく皮膚(炎症)症状は治まるのです。
龍は陽気すなわち生命エネルギーですから、攻撃したりいじめたりしてはいけないのです。
命の火ですから大切にしないといけません。
アレルギー性鼻炎、更年期障害の冷えのぼせ、高齢者の高血圧症、めまい、頭痛、神経痛、心臓病、脳血管障害、癲癇などの治りにくい病気は、特にこの考え方を応用して、 下焦(お腹)を温めることによって、陽虚を体質改善しないと良くならない方が多くみられます。
それらを解決してくれる糸口が、火神派の「医理真伝」の理論です。
次に、陽虚と陰虚について説明しましょう。
陽虚と陰虚
- 顔色が青白い
- 唇が青白い
- 目を閉じたがる
- 横になりたがる
- 声が小さい
- 気力がない
- 口数が少ない
- 身体が重い
- 寒がり
- 薄い唾液
- 舌上が潤滑
- 口中に津液があふれる
- 水はあまり飲みたくない
- 熱い飲み物を好む
- 大便・小便は出やすい
- 汗かき
- 四肢が冷たい
- 下半身が冷える
- など
- 顔色は紅い方
- 唇が紅い方
- 精神活発
- 目がよく開く
- 不眠傾向
- 声が大きい
- 息が荒い
- 身体は軽い
- 暑がり
- 大便・小便が出にくい
- 口が渇く
- 冷たい飲み物を好む
- 舌上が乾燥し黄色い
- 口中に津液が少ない
- 潮熱(夕方以降)
- 乾咳で無痰
- など
人を診た時、その人は陽虚(傾向)なのか陰虚(傾向)なのかを大別して、治療の基本方針を立てることが一番大切になります。
例えば、アトピー性皮膚炎を患っておられる方の舌を見ると、大半が潤あるいは滑舌です。
舌の表面は、濡れていて光っている状態が見受けられます。
これは全て陽虚を表わし、脈を取ってみても沈の脈が多く、時に浮いていても抑えると消えていく脈になります。
これらから、アトピー性皮膚炎の方は明らかに陽虚の方が多く、辛温薬や辛熱薬を用いることによって、陽気を補うという治療方法が基本になります。
潜陽丹、四逆湯、理飲湯、鎮陰煎、封髄丹の加減方が基本になります。