火神派の概要

20世紀の末、中医学(漢方医学)の世界に『火神派』と呼ばれる新しい学派が誕生しました。

その後、恐らく中国でも、『火神派』が「一部の地域の認識」から「全国区の認識」に格上げされて、まだ20年余りしか経っていませんが、今では、中国本土において『火神派』の書籍は、医学書の販売所に山積みされているということです。

そして、2009年頃になりますが、鄭寿全(字は欽安)を開祖とする『火神派』の理論を研修する機会を得ました。

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この『火神派』の理論は、先ず「人間」であろうと、「病気」であろうと、一貫して「陰陽のバランス」「陰陽の交わり」という視点から見つめていきます。

一見、非常にシンプルでありながら、最も大きな視点で人間や病気を観察でき、効果のある漢方治療に活かすことができます。

火神派とは、中国・四川省の名医であった鄭寿全を開祖とする中医学の学派です。

鄭氏は、人間の生命活動における「陽気(≒体を動かす生命エネルギー)」の働きを重視し、この“陽気の衰退”が多くの病気の根本的な原因と考えました。

治療に関しても、陽気を補う(強める)作用をもつ辛熱薬を大量に用いています。

例えば、潜陽丹(附子、砂仁、亀板、甘草)という方剤では、附子を24gも使用しています。

中薬学の教科書に提示している附子の量(3~15g)から考えると、その量の多さは飛びぬけています。

陰陽学説に基づく火神派理論

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火神派の理論の根底には、易経の陰陽学説があります。

陰陽学説は、世に中のモノは全て陰と陽に分けることができ、互いに依存しあい、また対立しあうことによって、バランスを取っていると考えています。

そして、陰と陽は一定ではなく、常に変化しているとも考えています。

例えば、1日という枠で考えると、昼が陽で夜が陰になります。

昼と夜は互いに対立しあい、また依存しあっています(昼がなければ夜もない、夜がなければ昼もない)。

そして、昼と夜は季節により日照時間が変化するように、陰と陽は絶え間なく変化を繰り返しています。

体の中では、この陰と陽のバランスが崩れた時に、人は病気になるという考え方です。

この陰陽学説は、世界の森羅万象を説明する最も基本的なモノサシである、という考えなのです。

陰陽はバランス

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また、生命の誕生を陰陽で考えますと、男性の精子(陽)が女性の卵子(陰)に侵入(結合)することによって受精卵が生まれ、発育して赤ちゃんが誕生すると考えています。

陽は目に見えないモノ(エネルギー)です。

陰は目に見えるモノ肉体であり、血液も陰です。成長して身体を作っていくのですが、陰と陽の間には、さらに陰(有形なモノ)は陽(無形なモノ)から生まれると考えます。

例えば人間で言えば、「生きていくための基本的な物質は、全て陽気の働きを通して作られる」ということです。

つまり陰陽の関係には、「陽が主導権を握っている」というだけでなく、さらに、「陽が弱ると陰という物質も減ってしまう」という関係にあるのです。

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人間の一生を考える時、肉体のピークは陰陽が最高に充実している26歳~30歳前後です。

以後、確実に陰陽が減っていくわけですが、これは仕方のない老化ということです。

陰陽が同じようにバランスよく減っていくと、病気にはかかりにくく、かかっても治りやすい、という健康な老いと考えられます。

しかし、陰陽のどちらかが偏って減ってきますと病気にかかりやすく、また治りにくくなります。

通常の健康体の人では、40歳までは陰陽が同じように減っていき、40歳を過ぎると陰の減る速度が早くなり、50歳を過ぎると陽が減るスピードが速まります。

陰陽はバランス

陽とは「気」など、目に見えないエネルギーです。

陰とは「血液、肉体」など、目に見えるものです。

人間は、陽が無くなって冷たくなってしまうとご臨終になります。

しかし肉体、つまり陰は残るのです。

ですから元気で長生きをしたければ、できるだけ陽を減らないようにしなければなりません。

”年寄りの冷水”で代表されるように、冷たい飲食物でお腹を冷やすことは、万病の元となるのです。

このように陰と陽のバランスを一番に考え、病気というものをもう一度見直してみると、意外と簡単に診ることができるのです。