漢方医学(中医学)からみた認知症( もの忘れ・軽度認知障害・認知症 )
認知症の原因の多くは、「アルツハイマー病」による脳の萎縮(脳神経細胞減少)と、「脳血管障害」による脳への血流量低下と言われています。
これを漢方的に考えると、前者は「精血の不足」に起因するものであり、後者は「瘀血(おけつ)」によって発生したと考えられます。
「精血」とは
生命活動の根本を担う物質で、「精」は「髄」や「血」を生み出す根本物質であり、「血」は脳に栄養を送るためには欠かすことのできないものです。
人は40代半ばを過ぎると、この「精血」が自然に減少してきます。
そこに何らかの負荷が過度にかかると、益々「精血」を消耗し「髄」を養うことができず、「脳」の萎縮を引き起こしてしまうのです。
「瘀血」とは
血液の質や循環が良くないために生まれた非生理的血液の停滞を指します。
「脳梗塞」「心筋梗塞」「静脈瘤」などが代表的な疾患です。
「瘀血」の原因としては、老化による「血液を運行する力の不足」や、「冷え」または「精神的ストレス」などによる血管の収縮、飲食の不摂生による「痰濁阻帯」(動脈硬化)などが挙げられます。
したがって漢方的には、「精血の不足」と「瘀血の発生」を防ぐことができれば、認知症の予防につながる可能性があるということですし、「軽度認知障害」が疑われる場合にも漢方の考え方を用いることで症状の緩和につながるのではと期待されています。
精血を充実させる漢方とは?
漢方では「陰」と「陽」というものの捉え方があり、「陰」とは血液や精などの物質、「陽」とは生命や熱エネルギーなどの機能を指します。
実は「陰」の充実のためには「陽」の充実が必要不可欠なのです。
人は飲食を上手に消化・吸収・代謝してはじめて「気・血・津・液・精」という基礎物質を生み出すことができます。
そしてこれらの基礎物質を全身に届けなければ正常な生命活動が維持できません。
この基礎物質を生み出し全身に届けるときに「陽気」(熱エネルギー)が必要なのです。
したがって精血の充実をさせるにはまず「陽気」を補うことが有効です。
しかし、すでに精血の量がかなり減少してしまったときは、まず「陰」(精血)を補う必要があります。
漢方を活用するときは、これらを上手に使い分けます。
血流量を増やす漢方とは?
気の廻りを良くして「?血」を除きながら血液循環を良くする漢方があります。
認知症の予防から脳や心臓の血管障害の予防に役立ちます。
また生活習慣病が気になり、血圧や中性脂肪・コレステロール値が高い方にはそれらに有効なのではないかとの研究がされているものもあり、不要な老廃物を除き、動脈硬化を予防し、脳の活性を高めるのではと期待されています。
認知症のタイプ別漢方療法
どのような身体症状や精神症状が生じるかは、この時期に至るまでの生活環境や飲食の傾向、身体的あるいは精神的な消耗の程度や様子などにより異なります。
少し専門的になりますが、もの忘れ・軽度認知障害・認知症は以下のようなタイプに分類されます。
詳しくは、漢方百草園薬局までお問い合わせ下さい。
タイプ | もの忘れ・軽度認知障害・認知症の症状ほか | 代表的な漢方薬 |
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Aタイプ 痰濁乗心 痰気鬱血 |
抑うつ状態、ぼんやりした表情、目の輝きがない、寡黙あるいはひとりごと、言語錯乱、怒りっぽい、だらしない、異常な行動、時々泣いたり笑ったりする、幻視、幻聴、幻覚、よだれや痰が多い、などの症状がよくみられる、 舌苔白膩、脈沈弦滑など… |
温胆湯加石菖蒲遠志欝金、加味温胆湯、星火温胆湯、半夏白朮天麻湯、冠心逐瘀丹、冠元顆粒 |
Bタイプ 血虚肝旺 気鬱血虚 |
愚鈍な感じで恍惚状態を呈する、よく溜息をつく、悲しんだり泣いたりする、胸苦しい、イライラして動き回る、不眠、などの症状がよくみられる、 舌質淡~偏紅、舌苔少、脈弦細など… |
逍遥散合甘麦大棗湯加減、柴胡加竜骨牡蠣湯、帰脾湯、抑肝散、柴胡桂枝乾姜湯 |
Cタイプ 腎精不足 髄海不足 |
愚鈍でぼんやりした表情、恍惚状態、健忘、骨格や筋肉が弱々しい、歩行困難、ふらつき、白髪や毛髪脱落、歯の動揺、などの症状がよくみられる、 脈虚など… |
左帰丸、左帰飲、河車大造丸、天王補心丹、人参養栄湯、右帰丸、右帰飲、参茸補血丸、鹿茸大補湯 |
※いくつかのタイプの混合タイプがよくみられます。