血液の栄養作用の低下によるアトピー性皮膚炎

不要な水分と結びついた熱の影響を受け続けると、血液成分の調和が乱れ、皮膚の栄養が不足していき潤いが失われるようになります(血虚)。

このタイプが「内燥型」のアトピー性皮膚炎です。

さまざまなアトピー

内燥型のアトピー性皮膚炎になると、皮膚が乾きカサカサの状態となり、細かいフケのような屑となってはがれるようになります。

そして、痒みは特に夜間に強くなり、掻いた後には白い線が残りますが、滲出液はほとんど出ません。

また、元気がない、顔の艶が悪い、筋肉が引きつる、不眠、軽い立ちくらみなどの症状も加わってきます。

成人のアトピー性皮膚炎では、前項で解説した「不要な水分と結びついた熱が病因」に加えて、身体に必要な栄養や潤いが失われているため、複雑に症状が絡み合い治療も難しいものとなります。

ステロイドホルモンを長期間使用してきた場合には、さらに難しくなります。

アトピー性皮膚炎治療の原則は不足したものを補うこと

中医学治療の原則は、不足したものは補うことですので、血液を補いながら風を治める「当帰飲子」を基本薬とします。

しかし、内燥型アトピー性皮膚炎の段階になると、多くの場合、熱を帯びた不要な水分によって「水の通り道」が塞がれています。

熱を帯びた不要な水分が「水の通り道」に溢れ流れを阻害しているときには、 頭が重い、胸がつかえる、泥状便、尿の異常などの症状を伴い、これに頭汗や口苦がある場合は、「柴胡桂枝乾姜湯」に「猪苓湯」を合わせて用います。

また、みぞおち付近がつかえる時には、「木防已湯」に「よく苡仁エキス」を加えたものを使うこともあります。

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イラスト(不足を補う)
この他にも、その症状によって様々な治療が考えられますが、身体に必要な栄養や機能の不足がアトピー性皮膚炎の根本的な原因ですので、とりあえず急性の症状を抑え、すぐに「当帰飲子」によって不足した栄養と潤いを補う治療に切り替える必要があります。

さらに乾燥が進んだアトピー性皮膚炎

さまざまなアトピー

さらに乾燥状態が続くと、ますます栄養や潤いが失われていきます(血燥)。

皮膚の弾力が失われていき硬く厚くなって、掻いてもいないのに皮膚から大量の白い粉屑のようになってはがれ落ち、昼夜を問わず痒みは強くなり、皮膚は常に熱を持つようになります。

さらに酷くなると、皮膚が熱をもって充血してしまい、治った後でも褐色の色素沈着が残り、精神的にもイライラしやすくなります。

このような症状にまでなった場合は、「滋陰降火湯」に「当帰飲子」を併用します。

また、熱が強い時には「黄連解毒湯」を使う場合もありますか、「黄連解毒湯」は長く使い過ぎると逆に乾燥が酷くなりますので注意が必要です。

その他に、熱を取り除きながら栄養と潤いを補う漢方薬には「荊芥連翹湯」や「温清飲」などがあります。

こんな症状のときにさらに血液の流れが滞ってくると、上半身の露出した部分に赤い斑点のような丘疹が現われ全身に広がります。

この丘疹は、痒みがかなり強く、掻くと「みみず張れ」のようなあとが残ったり、出血することもあります。

また、女性では月経の異常が多くみられ、このような場合には、血の巡りを回復する「桂枝茯苓丸」を併用することもあります。

病気が、からだの最も深いところに及んだ場合

漢方では血液の源は腎臓の水液と考えますが、アトピー性皮膚炎でステロイドホルモンを使い続けることで、その熱などが加わり体内の熱の力が非常に強くなると、その水液までもが失われてきます。

さまざまなアトピー

血液の源である腎臓の水液が失われてくると、皮膚は萎縮し、皮下脂肪も減少していき、皮膚がザラザラになって干からびてしまいます。

そして、肌は濃い褐色になっていき、うぶ毛が抜けてツルツルになり、さらに症状が悪化すると皮脂腺の分泌までが働かなくなるため、皮膚に亀裂が入ったり、魚の鱗のようになります。

ここまでになると、痒みは強烈で掻くと血がにじみ、時には少量の滲出液が見られることもあります。

その他の症状として、手のひらや足の裏の熱感、夜間の発汗、頭のふらつき、腰痛、足に力が入らない、尿の色が濃い、便秘などが現れてきます。

このような場合には、熱の勢いを鎮めながら腎臓の水液を補う「知柏地黄丸」や「六味丸」を中心に用います。

また、熱を取り除く「滋陰降火湯」を加えると効果的ですが、ここまで病気が進むと、治療にはかなり時間がかかります。

「冷え」で起こるアトピー性皮膚炎

「冷え」で起こるアトピー性皮膚炎

生まれつき体内のエネルギーが不足している人は、栄養代謝の機能が弱く身体に必要な熱の量が慢性的に不足し、身体が常に冷えた状態になっています。

身体が常に冷えた状態だと不要な水液が生まれやすく、不要な水液と「冷え」(寒)が結びついたものが原因の発疹あるいは水疱が出やすくなります。

最初は発疹の数は少なく、掻くと透明な水液が滲むくらいですが、慢性ですからこの状態は長引きやすく、時間とともに熱が加わってきます。

そして、ある時これに風が結びついてアトピー性皮膚炎を発症してしまいます。

このようなタイプの場合、不要な水分の力の方が熱よりも強いため治療は不要な水分を取り除く「胃苓湯」や「茵蔯五苓散」を使います。